リバロス キャニオニック60M
バイラ50HMD(ヘビーミディアムディープ)
Gレッド/オレンジ
ツインパワーC3000XG
PEライン0.8号&ナイロンリーダー10ポンド
ハンドメイド
北海道 十勝川(とかちがわ)
2016年7月13日
午後0時
晴れ
25℃
15℃
アングラー:BEAR DOG 五十嵐(ベアドッグいがらし) 北海道恵庭市在住

「ブン、ブーーン!」
携帯電話のバイブ音が鳴っている。眩しくて暑い。
そして、脈打つ度に訪れるひどい頭痛…
「???」
一瞬状況が理解できず、そして鳴り響く携帯電話を探してでる。
「おい! こら! 起きろ! いつまで寝てんのよ!」
耳元で轟く“STEW熊澤”さんの声。
「あ?… あぁぁぁ! ごめん…」
またやらかした、寝坊。

昨日の夕方、仕事を終えて急いで帰宅し、下の子をお風呂に入れ、
急いでキャンプ道具を車に詰め込み、道東自動車道を走って十勝までやってきた。
そこまでは俺の普段の釣りスタイル…
だがここ最近、そのスタイルに変化が訪れている…
“STEW熊澤”さんとの出会いがあったからだ。

何やら彼のスタイルは、釣り前夜は飲み、
しかも結構な量のお酒で汚れた身体を清めることが、
デカいニジマスとの遭遇率を上昇させる、という流儀なのだ。
確か昨夜は、居酒屋でシコタマ飲んだ後に、テントサイトでまた乾杯。
結局午前2時半まで飲み、
午前6時に起きるという固い約束をしてテントに入ったわけだが、
今日も当然、酒に弱い俺が起きられたためしがない…

急いでテント内で着替えを済ませ、出入り口のファスナーを開けると…
「?」
そこに在るはずの“STEW熊澤”さんの車が無い…
完全にヤラレタのである。
強烈な頭痛を横に置きながら急いでテントを撤収する。
そういえばさっきの電話の最後に言っていた、
「A地点で待っているからな!」
の捨てセリフが、今になってやっとつながった。
気分は頭痛で最悪なのに、何故だか笑いが込み上げてくる。

A地点に到着。
「おはよう〜ごめん」
「おっせーんだよ!(笑)」
この人はほんとに面白い人だ。
感心している暇もなく、十勝川上流部まで2台で移動。
途中、川の状況を見ながら2週間前に入渓した地点まで進むと、
前を走っていたSTEW号が急停車。
「どうした?」
バックで俺の車をかわし、更にそのまま戻っていく。
“STEW熊澤”さんが車から降りたので、俺も降りる。

「これ、熊のフンでないか?」
俺にはピンと来なかったが、どうやらそういう事らしい…
「失格だな」
冗談を言うときのいつもの顔だ。
「何がやねん?」
「ベアドッグ(クマ対策犬)としてフンに気づかないとは致命的なミスだな」
明らかに辺りにある熊の気配を少しでも消し去ろうと、2人で爆笑。

「とりあえず、予定していた上流のポイントまで行ってみよう」
1台を下流の橋のたもとに置き、STEW号で上流に到着。
河原までのアプローチは容易だった。
「おー、いい雰囲気じゃね? やってみっかい!」
2人とも頭の片隅にはさっきのフン…
付かず離れず、お互いの姿を目視できる間合いで釣り下っていった。
魚はそこらにいて反応を示してくれるが、
前回よりも水量がかなり少なく、その反応はそれなりにシビアだ。

しばらく進むと、河原に足跡を発見。そんなに古くはなさそうだ。
「朝一に先行者がいたのかも知れないな」
そんな話をしながらふと2人で目をやった下流の対岸に、黒い影。
それは一瞬だった。とっさに2人で目を合わせる。
「何だ今の? 見たべ?」
熊鈴に手を伸ばしながら、
「見た、黒いのいた!」
対岸には農家がある筈だが、そんなことは関係ない、
ここは携帯電話の電波も圏外の山奥なのだ。
見たものだけが真実なのだ。

「下流の車まで行こう」
と”STEW熊澤”さんが言う。
ここから、置いた車がある下流の橋まで、ざっと1.2kmぐらいだろうか?
だが、問題の対岸を越えなくてはならない…
すると”STEW熊澤”さんが、
「どうぞ」
手を下流側に指し示している。
「なによ! ベアドッグ(クマ対策犬)だから行けってか?(笑)」
首にさげていたホイッスルを2〜3発鳴らして突き進む。

「あ? ダメだ、ルアーケース落としたわ」
10年ぶりにバッグスタイルからベストスタイルに戻した俺のポケットから、
何と、ミノーが詰まったルアーケースが無くなっていることに気付いたのだ。
「どこで無くした?」
と”STEW熊澤”さん。
「熊の対岸の近く」
と俺。
「バカたれっ、この!」
来た道を探しながら引き返すも、結局ルアーケースは見つからず…
近年稀に見る最悪なスタートだ。
しかし気は持ちようだ、
ルアーはたくさん無くしたけれど、使おうと決めていた『バイラ』は無事だった。

その後、無事に橋まで到着するも、肝心のニジマスさんは小さいのばかりだった。
車に戻り、水分補給しながら、
「次、どうする?」
「水量少ないから下流行ってみっかい?」
と俺。

下流のポイントは2人とも初めてのポイントだった。
水量も多く、流れも緩やかで、いいポイントが続く。
1投、チビだが活性の高さをうかがえるヒット。
2投、3投と連続ヒット。なかなか良いようだ。
最初のポイントで連発したあと、先行していた”STEW熊澤”さんに追いついた。

すると、
「ここやってみれ」
と”STEW熊澤”さん。
「今日はお前のデビュー戦だからな、デカいの釣れよ!」
と捨てセリフを残して下流のポイントへ行ってしまった。
顔の割に優しいオトコだと感心しながら、残していったポイントを眺めた。
上流側のヒラキからゆったりとした流れが続き、
対岸の岩と手前の沈み岩の間に流心がある。
「魚が着いているとしたら、そこだろうな?」
そう思いながら、”STEW熊澤”さんが今朝分けてくれた『バイラ50HMD』を付ける。
ここに着くまでロストはしなかったが、岩に擦れて背中の塗装が剥げている。

フックの尖りを確認し、
ニューロッドの『リバロス キャニオニック60M』で、
ダウンストリームでフルキャストする。
一発で岩と岩の間に着水。
十分にフォールさせ、流れに馴染んだところでテンションを掛け、リトリーブ開始。
いつものようにデッドスローの誘いだ。
リトリーブ、ストップ、軽くトゥイッチ、またリトリーブ…
手前側の核心部に『バイラ50HMD』がさしかかったときだった。
ティップに伝わるアタリと同時に、水中で光る魚体。
とっさにアワセると、魚の重量感がバット部分に乗った。

「キターーー、デカい!」
と叫んだ。

きっと下流の”STEW熊澤”さんが、うるさいと感じるほどの声だったと思う。
ドラグ調整を行いながら魚をいなす。
下流には瀬が続くから、流心に入られたくない。
ラインブレイクも頭をよぎる。何とか手前の流れの緩い場所でランディングしたい。
「おー、いいサイズだねー!」
気付くと”STEW熊澤”さんが戻ってきていた。
「ばらすなよ〜」
足元での何度かのダッシュの後、無事にネットイン。
「よっしゃー!」
と俺。

左手はネットインしたニジマス、右手は”STEW熊澤”さんとガッチリ握手した。
「よかったなー、ほんとに良かった、俺はうれしいよ!」
と”STEW熊澤”さん。
「ありがとう、本当にありがとう、お前のおかげだよ!」
ネットインした魚は、魚体の素晴らしく奇麗なオスのニジマスだった。
これまでにデカいニジマスは何本か釣り上げているが、
厳ついオスのニジマスは初めてだった。

遅刻した俺。
友がくれたチャンス。
結果を出せた俺。
自分の事のように喜んでくれた友。
最高に美しい魚。

ときおり辺りに漂う獣臭も、今はなぜか怖くない。
最高にうれしいかたちで、
ニューロッド『リバロス キャニオニック60M』への入魂は完了した。
このロッドと一緒に、これからいろんな魚との出会いがある筈だ。

“STEW熊澤”さんと山奥で別れてから、家に着くまでの約3時間。
その運転は全く苦にならず、
今日のさまざまな風景を思い出しながら、むしろ楽しいドライブとなった。