リバロス ブレイドウィザード86MH | |
ロンズ スローシンキング9cm Gブラック | |
ステラ4000XG | |
PEライン16ポンド&ナイロンリーダー20ポンド | |
プラウ90SL | |
ブレイドバー シルバー ネットバンド セージグリーン |
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北陸地方 某河川 | |
2012年4月10日 | |
PM1:30 | |
曇り | |
未計測 | |
9.3℃ |
「金黒禁止かぁ…」
仕事が終ってから急いで釣りの準備をし、
夜中に滑り込んだハイウエーで、思わず言葉が漏れた。
「金黒」が使えないのなら、鱒釣り師として昇格しても意味がない…
先日投稿した63cmのブラウン(『オーナーズパーティー!』No.73)を釣った時、
流れの鱒釣りを教えてくれた先輩との電話で、私が心から伝えたかったことだ。
しかし、無情にも通話は切られてしまい、以来伝えることができていない。
数え切れない「金黒」との思い出に浸りながら、アクセルペダルを踏み込む。
ルアーケースを開けた時の、あの「金黒」の笑顔…
ここぞというポイントで頼りがいのある、あのまなざし…
魚を釣り上げた時のキラキラとした、あの無邪気な表情…
膨大な時間を共有し、互いに信頼し合い、誰よりも愛し合っていた。そして今なお…
車のハンドルを握る手は震え、唇は青くなり、目には涙が溢れていた…(気がする)
近づく富山の街並みがぼやけて見える…
なぜか塩辛い…
海が近いからなのか…
富山県庄川(しょうかわ)。
今シーズンから通い始めたこの川。ここで私はいまだにサクラマスを見ていない。
周囲の山々はまだ白く、4月といってもかなり寒い。
午前4時半、けたたましい携帯電話の目覚まし音で起こされた。
眠い目を擦りながら、
お気に入りのフリースを着込み、この日も朝から精力的にポイントを巡る。
しかし、あたりまえのようにサクラマスからの魚信はない。
この日の川は、雪代とダムの放水で白い濁りと増水という状況。
釣れない濁りではないだろうが、ポイントで会う釣り人たちに釣果を聞いてみるも、
みんな一様に首を横に振るだけでいい話を聞くことはできなかった。
その後も日没近くまでキャストを続けるが、結局この日、サクラマスからの魚信はなかった。
今回は2日間の予定でこの川を訪れているが、この感じだと、
明日になってサクラマスの活性が好転する可能性は低いと勝手に判断し、
大きく川を変える決意をした。
その日のうちにすぐ移動を開始し、夜には北陸地方の某河川に到着していた。
ポイント近くの川原で独り、お得意のプレミアムビールで前祝い。
明日の釣りのために、早々に寝袋に包まると、わずか数秒で眠りに落ちてしまった。
やっぱり丸1日川を歩くのは体力的にもかなり厳しい。
それでアタリもないとなると、なおさらだ。
次の日も朝暗いうちからポイントに立っていた。
昨日の疲れで、鉛のように重い身体に鞭を打ち、一歩一歩丁寧に釣り下る。
その川の上流域、周りには釣り人は誰もいない。
朝の川は静かで、川面に朝霧が漂い、実に気持ちがいい。
耳に聞こえてくるのは鳥の囀り、川の流れる音だけである。
いかにも釣れそうな雰囲気の中、静寂を切り裂くようにキャストを続ける。
しかし、ノーバイト…
めずらしく2日も続けて朝早くから釣りをしてしまった祟りなのか。
そこからめぼしいポイントというポイントを攻め続けるも、
一向にサクラマスからの魚信はない…
時刻はもう昼の12時をまわっている。
「そろそろ釣らないとヤバいな…」
心のなかでそう呟いた。
「朝一、チャンス以外で釣ること。それもサクラマスだ」
全国の河川でサクラマスを釣り上げてきた先輩の教えが頭に浮かぶ。
釣りをする時間が惜しいので、
昼食はポイント移動しながらパンやおにぎりを齧って済ませていた。
そして13時ごろ、とあるポイントに車を止める。
ここは、上流部で2つに分流していた流れが合流し、
1本の流れとなって瀬を形成している。
そこそこ水深もあり、水勢にはいかにもサクラマスが付いていそうな感じが漂う。
上流から釣り下り、水深、流れ、気分に合わせて、
『ロンズ』9cmをフローティングからスローシンキングにローテーションする。
ベストの右側ポケットからスローシンキング用のルアーボックスを取り出し開けると、
そのボックスの隅の方から視線を感じた。
よく見ると、つぶらな瞳で「金黒」が私の方をずっと見ているのだ。
ブルペンで投げ込んでいる野球のピッチャーのように、
いつでも出られるような状態をずっとキープして、今か今かと出番を待っているのだ。
そう前回のブラウン以降、流れの鱒釣りを教えてくれた先輩に「金黒禁止令」を出され、
昨日今日と、1度も使わずにいたのであった。
再度、「金黒」と目が合うと、
「監督、俺を使ってくれ」
と言うかのように、決して私から視線をそらさずに、強い眼力で見詰め続けている。
お前がそう言うのなら… よし、私が全責任を負ってやる!
「ピッチャー交代、金黒!!」
どこにもいないアンパイヤーに向かって、ハスキーボイスで監督の私は叫んだ。
その瞬間、スタンドはどよめき、観客の期待と不安が入り乱れ、
何か重い雰囲気が球場(川)全体を包み込んだ。
ブルペンのドア(ルアーボックス)は閉じられ、「金黒」の入場テーマが鳴り響く。
一歩一歩、自信に満ちた足取りでマウンド(スナップ)に向かって歩いて行く。
マウンドに到着した「金黒」は、
チームメイト(タックル)との打ち合わせの最中、監督の私の方を見て何か言っている。
何を言っているのか、口の動きで読み取ってやろうと口元を凝視する。
「ありがとう…」
この瞬間、「金黒」と私は心の中でがっちりと握手を交わした。
これまで以上に完璧な信頼関係が構築されたのだった。
ランの流れが開き始める辺り、
ややアップクロスに『ロンズ スローシンキング』9cm「金黒」をキャストし、
中層まで沈め、クロスからダウンクロスに入った辺りで、2回ほど軽くトゥイッチを与える。
水中ではキラキラと輝き、「金黒」がサクラマスに魔球を投げているであろう。その瞬間、
「ゴツッ、ゴツッ」
PEラインを通して激しく、そして鋭い感覚が手元に伝わった。
無意識のうちに身体が動き、アワセを入れる。
ロッドを寝かせて余分なPEラインをリールに巻き込み、テンションを一定に保っていると、
ティップ部は揺さぶられ、いかにもサクラマスらしい感触が伝わってきた。
と、突然、銀色の魚体を露にして、サクラマスが水面に踊り出た!
「先輩っ、サクラっ…」
言葉が漏れる。
約1年ぶりのサクラマスとのファイトに、手足はもうブルブルで、
意中のあの子に見せたいファイトスタイル・ぱんぱんのホッペタの膨らみも萎みがち。
そんな、男として不完全燃焼の消極的なファイトでも、
『リバロス』のバットパワーが徐々にではあるがサクラマスを寄せてくれる。
首を振ったり、走ったり、元気いっぱいだったサクラマスを、
あと少しで手が届く距離までなんとか引き寄せることができた。
そして『プラウ90SL』の大きさを利用し、ちゅうちょなくランディングに導く。
「これが俺の鱒釣りだーっ! ワイルドだろーーっ!!」
雄叫びと共にサクラマスを水面に浮かし、
銀麟の魚体を荒々しく『プラウ』に転がし入れた。
1日に1度あるかないかのバイト、
何度味わってもスリル満点のファイトを、なんとかものにすることができた。
銀色の魚体が目の前に横たわっている。いつ見ても惚れ惚れする。
興奮冷めやらぬ震える手で携帯電話を取り、いつものダイヤルに発信した。
「やっと捕りました、サクラマスっ!」
ダイヤルの相手は、流れの鱒釣りを教えてくれた先輩だ。
「今年もやったな、おめでとう。状況は?」
先輩は言った。
「サイズは50cmです。『ロンズ』のスローシンキングでやりました!」
感動いっぱいで、膝がガタガタ震えている。
「よかったな。で、色は?」
一瞬にして喉はカラカラになってしまった。
「…色は ……金黒です」
突如、通話は切られた。
それから何度かリダイアルをしてみるも、先輩と連絡はとれなかった。
カメラを取り出し、艶やかなサクラマスを撮影する。
たった今、今季初のサクラマスを釣ったうれしさと、
「金黒」で釣ってしまった罪悪感の入り乱れた複雑な気持ちのまま、
何かを紛らわすかのようにシャッターを切り続けていた。
突然、携帯電話が鳴った。メールの着信を知らせる音だ。
急いで携帯電話を取り出し、メールを開く。
>From 先輩
「デストロ〜イ」
何? いつもみたいな降格人事では済まないの?
どうなってしまうの!?
そろそろ春のハイシーズンを迎える流れの鱒釣りに、暗雲が広がる…