今シーズン、絶不調の僕。
早春から巨大ニジマスを夢見て、
道北の天塩川（てしおがわ）・石狩川（いしかりがわ）に通っているけど、
釣れるのは河の規模には似合わない超小型のニジマスばかり。

雪シロ前も不発・雪シロ直後も不発・真夏は当然のように不発…
今年の夏は北海道らしからぬ猛暑で、
暑さに弱いデリケートな僕は、身も心もボロボロ…

気がつけば9月に入り、秋ニジの季節。
今日は久々に、地元の湧別川。
河は先週の雨の濁りが少し残っているものの、かなり良さそうな状況だ。

雨のなか、準備を済ませポイントに向かうと、
先行者が黙々とルアーをキャストしている。
あいさつをして邪魔にならない所に入れてもらおうと思ったら、
「どうぞやって下さい」
とポイントを譲ってくれた。
なんて優しい人なんだと感謝の気持ちで釣り始める。

しばらく釣り下ったところで、
『リバロス ブレイドウィザード80M』の竿先がジワーッと重くなり、
根掛かりかと思ったがアワセを入れてみると、
ジジジジーとドラグが鳴り、PEラインが出されていく。
いつもよりはデカそうだ。
十分にファイトを楽しみ、無事ネットイン。

メジャーを当てると50cmを数ミリ超えている。

あー良かった。

やっと釣れた。

ふと人の視線を感じて顔をあげると、
このポイントを譲ってくれた先行者の方が、
ずっと上流の流れに立って静かにこちらを見つめている。

それはまるで、立派な大人に育った娘を見つめる年老いた母親の姿。
その途端、河の音が消えて、ある美しいメロディーが流れ出した。

その歌は山口百恵さんの名曲・秋桜（コスモス）だった。
「こんな小春日和の〜 穏やかな日は〜
あなたの 優しさが しみてくる〜♪」
僕は、明日には嫁いでいく娘の気持ちで、遠くの先行者の方を見つめていた。
重なる視線。
まだあなたの子供でいたいという気持ちが、
秋雨の川辺をいっぱいに満たしていた。

早春から夏まで、ずっと独りでボロボロだった僕。
今夜は久しぶりにハイボールで祝杯があげられる。

優しいニジマスと、人の優しさに、大粒の涙を流しながら…