ディノバ 80ミディアムランナー Sアユ
ルビアス2508
PEライン12ポンド&ナイロンリーダー8ポンド
ブレイドバー ガンメタ
長野県 犀川水系
2011年9月30日
PM5:00
曇り
未計測
12℃
アングラー:坂谷内康明(サカヤチ ヤスアキ) 長野県北佐久郡在住

この堰堤にたどり着いてもう何投したかを思い出そうとした。
5cmのウルトラヘビーミノーを12投して、6.3cmのミノーに結び替えて5投し…
いや7投…? どうでもいいか…
7cmのヘビーシンキングミノーをスナップから外す。
ケースから取り出した『ディノバ』を口にくわえながら堰堤の流れを見つめた。

「川」と言うよりは「沢」と言った方がいい渓相。
この堰堤を目指して100mほど下流から入川して来たのに、
流れが薄すぎて結局ここまで1投もせずに歩いて来てしまった。
手にしているのは6フィートだが、本来5フィート前後のロッドで釣るべき筈の「沢」。

だが堰堤にたどり着いた途端、40cmを大きく超える黒い魚が、
2m近い堰堤の落差の壁をあと一歩越えられずに、流れに落ちた。
期待が確信に変わる。リーダーの先を切り詰めてノットを結び直した。
明日からは禁漁。
この谷の深さではあと1時間もすると暗くなり始める。
腹をくくった。

実際は堰堤下の深さを見誤っていた。
この山は、増水時に川の水量を大きく変えて釜を深く掘っているようだ。
白泡の下にはまだ手つかずの深いレンジが残っている。
8cm・16gの『ディノバ』を大真面目で結ぶ。
表層のはき出す水流にとられ流されるリーダーを問答無用で水中に引き込む重量と、
ふき上がる流れの中で素早く沈む姿勢を作るテール寄りのバランス。
狙えるレンジは一転した。

渓流ロッドでもシャープにテールを振らせることのできる反応性と、
アクション後に見せる絶妙な間。
バット部にウェイトを乗せて山なりに投げ込む。
迷いながらもボトムにこだわった。
ラインスラックを残して食わせの間をやや長めにとりながらレンジをキープしつつ、
一拍ずつ強めのトゥイッチを入れてリアクションバイトを誘う。縦の動き。
おそらく3投目、手前の駆け上がりに差しかかった『ディノバ』が押さえ込まれる。
堰堤下から引きずり出すが、下流の瀬に下ろうと足元をすり抜ける。
強引に引き戻すとまた足元を通って堰堤下に入り込んだ。
あまりの接近戦に一瞬肝を冷やすが、間もなくネットに滑り込ませた。

このサイズになってもとぼけた表情は変わらない。

堰堤を乗り越え損ねて見つかったあげく、
場違いなデカいミノーで釣り上げられた可愛いやつ。黒い顔でキョトンとこちらを見る。

スリムな魚体に、間違えて付けたような大きな尾ビレと胸ビレが生え、
大きな歯が鋭く尖っていたが、なんだか八重歯に見えてくる。
リリースしてもふらふらと泳ぎながら足元を離れない。
ようやく薄暗い流れに消えて行った。

来年も渓・中流域に行く時は、ケースに『ディノバ』を入れて行く筈。
今まで攻めきれなかったあの堰堤・あの釜で、
また『ディノバ』を口にくわえる自分を思い浮かべると、
イワナの映るディスプレイの前で左の口角が上がるのを感じた。