リバロス ブレイドウィザード86MH
ディノバ 80ミディアムランナー Gブラック/オレンジ
ステラ4000XG
PEライン16ポンド&ナイロンリーダー20ポンド
プラウ90SL
ブレイドバー シルバー
富山県 神通川
2011年5月23日
AM10:00
曇りのち雨
未計測
12.3℃
アングラー:NORIXON(ノリクソン) 群馬県安中市在住

ゴールデンウイークのそこそこの釣果で調子に乗り、
そこから休日の度に神通川に通っていた。

ゴールデンウイーク明けすぐの休みには、サクラマスらしき魚を掛けたのだが、
水中の岩に擦られて、まさかのリーダーブレイク…

昔、鹿児島県・トカラ列島の荒海で、ディープジギングで、
ダンプカーみたいな巨大イソマグロを掛けたとき以来のリーダーブレイク…
そう言えばあのときは、流れの鱒釣りを教えてくれた先輩が隣にいて、
大好きなミックスサンドをほお張りながらも、船の上で必死に声を掛けてくれた。
でも、海底の荒い根の中に突っ込む数十キロの魚に何も抵抗できなかった…
表層で釣るカツオやマグロはさんざん捕ったが、底物の巨大魚は別物だった。
ザラザラになって切れたリーダーの先端が虚しかったなぁ…

そのサクラマスらしき魚のリーダーブレイクが、もう悔しくて悔しくて。いまでも悔しい。
サクラマスという魚は、バラしたときの記憶が頭に焼き付いてしまう。
当然、次の休みも神通川に出動です。

そのときもあるポイントで大きな魚を掛けたのですが、
「ガツン」とあたって、フッキングを入れたにもかかわらず、
サクラマスらしきトルキーなローリング3〜4回で、まさかのフックアウト。
この2連続の、サクラマスと思われる魚たちの逃亡劇を、
最近、犬を飼おうか悩んでいる、流れの鱒釣りを教えてくれた先輩に話したら…

「上級生から下級生へ。お前は降格人事だな」
と、バッサリ! ゴールデンウイーク前の休みの日、太平洋側の本流に呼び出された。
その日は神通川が大荒れで釣りにならず、ゴルフにでも行こうかと考えていたが、
そろそろサツキマスが入ってくるから来い、という一方的な話だった。

ピーカンの1日で日中の最高水温は20℃を超えるタフな状況。しかも超渇水。
先輩は車の運転からポイント案内、おいしいラーメン店の伝授など、
助手席でウトウトしている自分を叱ることもなく、フル稼働で面倒を見てくれた。
どう考えてもサツキマスは釣れない状況だったが、
最後まで諦めない先輩は『ロンズ 7cm』の激しい表層トゥイッチングで、
見事な本流銀毛アマゴを引きずり出した。薄皮一枚の厳しいフッキングだった。

「いいか。本流鱒釣りでは、いい人柄と、いいファイトしか役に立たない」
そのときの先輩のフレーズが、降格人事をくらった今の自分にグサッと突き刺さった。
…また下級生からやり直し。

悔しいので、次の休みも神通川に登校です。

その日は、先週までの真夏のような日差しは影を潜め、
長袖を着ていないと肌寒いような天候であった(実は自分は女の子より寒がり)。
空はどんよりと雲っていて、今にも本格的に雨が落ちてきそう
(実は自分は雨も苦手。あまり降られると真っすぐ家に帰ってしまう)。
前々日の雨の影響で、川はやや強めの濁りがあるものの、十分釣りになる感じである。
水位はかなり落ちついてきていて、増水はあまりない。
川辺の木々や雑草は、時折ぱらつく雨に濡れてよりいっそう緑色になっていた。
朝一番の水温は先週に比べ1℃近く低かった。急な冷え込みと雨の影響であろう。

朝から精力的にポイントを巡るもののサクラマスからの魚信はない。
やっぱりサクラマス釣りはそんなに甘くない…
ノーフィッシュが頭をよぎる中、次に入ったポイントでドラマが待っていた。

そのポイントは岩盤と岩が入り混じった100mほどの瀬で、
上流がかなり絞れて激流となっているため、魚がたまりやすい。
その瀬を上流から丁寧に釣り下る。
ランの中程。
ややアップクロスに『ディノバ 80MR』をキャストし、
川の流れに乗せて流下させながら、中層までルアーを沈めて送り込む。
『リバロス ブレイドウィザード86MH』を立て、遊泳層をコントロールしながら、
トゥイッチを加え、サクラマスにアピール&喰わせのタイミングを与える。
『ディノバ』が速い流心の流れの中から、ドリフトしながら緩流帯に入ったときであった。
「ゴクンッ」
鈍く、重いアタリだ。

体が反射的に動きフッキングを入れていた。直後、魚は激しくローリングを繰り出した。
ロッドを寝かし、できるだけ水面に魚を出さないよう、静かに耐える…
『リバロス』のティップからベリーが、3度、4度と激しく揺さぶられた。

「先輩、鱒!」
魚を確認してはいないが、思わず口走る。
と突如、強めに設定されたドラグを引きずり出しながら、魚は川底に走った。
「ジッ、ジッーー」

「おう、ドラッグ出るね〜」
昔見た有名アングラーの釣りビデオのセリフが、今日も口から出ていた。
毎度同じことを言っている気がするが、今回は少しハスキーな声だ。大人への成長か。
今度は、魚は川底に張り付き、最大限の抵抗をしている。

「今度釣れたら、先輩にプレゼントしますよ!」
数日前に自ら交わした約束。
4月に釣り上げた神通川のサクラマスを食べたところ、
大変おいしかったことを先輩に告げると、食べてみたいな… と呟いた。
いつもはリリース派の自分だが、その言葉に体が反応して笑顔で約束していた。
この1匹は何があってもバラせない。いや、バラすわけにはいかない!

いつものように最大限にほっぺたを膨らまし、サクラマスに対抗する。
人に見られたらとても恥ずかしい姿でのファイトだが、一向に構わない。
この1匹は自分の勲章ではなく、大切な先輩に捧げる心からの1匹なのだ。
今の自分にはこれしかできないし、これがすべてだ。
このサクラマスを取り逃がしたら、もう来年までチャンスはないかもしれない。

勝敗は決した。
サクラマスは見事『プラウ90SL』に。

銀色の魚体を河原に横たえながら、
感動冷めやらぬ震えた手で、いつもの携帯番号に発信していた。
ウェーダーの浸水による寒さだけではない、胸がいっぱいで全身がガクガク震える。
「先輩、サクラマス、またやりました!」
感動と興奮で何をしゃべったのかよく覚えていない。
とにかく先輩に伝えたかったのだ。

「おめでとう、昇格試験合格だ。お前はまた立派な上級生だな」
まるで自分のことのように喜んでくれる先輩。たまらなくうれしい!
しばらく話した後、リリースしたのかと問われ、まだ目の前に居ますよと伝えると、
「食べてみたいな…」と、先輩の呟きが携帯電話から聞こえてきた。
ジットリとした嫌な汗が瞬時に体中の毛穴から噴き出す。ピンチ! これはマズイ…

今の職場はかなり融通の利かないところがあって、
自分だけ有給休暇など取ろうものなら、思い切り仲間ハズレにされてしまう雰囲気。
でもいつかは長期の休みを取って、北海道に鱒釣り遠征してみたい。
そしてさらには、並み居るライバルたちをコッソリ出し抜いて早期昇給をものにしたい。
だから自分は先輩の「食べてみたいな…」の言葉を聞き逃さずに、
「今度釣れたら、先輩にプレゼントしますよ!」
と営業マンのかがみのような態度をとり、ここ神通川に立っているのだ。
つまりプレゼントの約束を交わした相手とは、
流れの鱒釣りを教えてくれた先輩ではなく、職場で権力を握っている別の先輩…

午前7時に待ち合わせをし、午後2時近くまで川で待たせてしまったこともある。
スナップやリーダーなど、消耗品は忘れたフリをしてしょっちゅう分けてもらってきた。
居酒屋で酔いつぶれたフリをして、自宅まで何度も送り届けていただいた。
悪いレディに騙されそうになると、いつも必ず救出してくれた。
数え上げたらキリがないが、この瞬間、最も頭を満たすのは、
「神通川のサクラマス遊漁券を手にできたのは、誰のおかげだったのか」…

数年間釣れなかったサクラマスをすっかり諦めていた自分に、今年の春先、
「今すぐ郵便局に行き、神通川の漁協にはがきを送れ、いいな」
と、強制してくれたのは誰だったのか。
それがきっかけとなり、人生初のサクラマスを手にし、さらに数匹もキャッチ。
右も左も分からない神通川で、現場から電話を掛けてアドバイスを仰ぎ、
指示に従い行動した結果、手にしたサクラマスもいた。
この川の歴史に詳しい先輩がいたからこそ、その先輩の後押しがあったからこそ、
自分は今季、最高のサクラマス釣りを満喫できているのだ!

さまざまな思いが走馬灯のごとく浮かび、それはほんの一瞬だったけど、
胸の奥底から熱くなった。そしてしっかりと先輩に言った。もう迷いはまったくなかった。
「職場の先輩にあげる約束しちゃってるんですよ(笑)」

次の言葉を継ぐ間もなく、通話は切れていた…
サクラマスのランディング以上に危険な状況を見事に切り抜けた。
これが社会人の生き方だ。学生時代なら危うく情に流されていたかもしれない。
その充実感、達成感、ヤッタゾ感に薄っすらと目を細め、
富山の新鮮な空気を大きく吸っていると、携帯電話がなった。
電話ではなくメールの着信を知らせるものだった。流れの鱒釣りの先輩からだ。

「先輩 VS 先輩」

どちらかと言えばマイペース。どんぐりの背比べは嫌い。
本流で大きな鱒を狙い続ける、男気一本の頑固者。
争いごとはバッサリと切り捨てる。子犬とレディにはとことん紳士。
そんな流れの鱒釣りを教えてくれた先輩が、
見ず知らずの自分の職場の先輩に宣戦布告、柄にもなく敵意を向けている!
しかし、北海道の鱒釣り遠征と早期昇給の魔力の前には、なすすべも無い。
「また釣れたら送りますよ」と返信したけど、当然、営業マンのリップサービス。

かつて、銀河鉄道999のメーテルが実は機械人間だったと知ったとき、
数日、具合が悪くなり、元気を失ったピュアな先輩。ファイト!

川は、少年を大人に変えていく。流れの鱒釣りは、いつの日までもやめられない…