ディノバ 80ミディアムランナー Sブルー/ピンク
コンプレックス2500HGS
PEライン1.2号&ナイロンリーダー16ポンド
プラウ75SL
ブレイドバー ガンメタ
富山県 神通川
2011年5月15日
PM1:30
晴れ
未計測
未計測
アングラー:荒井尚志(あらい ひさし) 長野県安曇野市在住

突然、狙っていた獲物が『ディノバ』を強引に水中の奥へ、
さらに奥深く、そして右へ左へ持っていく。大型だ…
真っ赤なマグマが一気に地上に溢れて流れ出すように、僕の心臓は熱くなった。
「今度こそ我が手中に!!」

そう強く願ったが、手前の激流で鱒に抵抗されると終わってしまうから、
一定のラインテンションを保つように流れの速さに負けないくらい全力で、
僕も下流に向かって激走した。
そしてようやく岸際ぎりぎりまで誘導することに成功!
鱒も僕も体力は限界だ。ロッドは恐ろしく曲がり、ようやくランディング。

しかし『プラウ75SL』には収まらずにネットフレームの上を滑り、
最後の力を振り絞った鱒が手前の激流に突っ込んでいく!!
鱒の体高が受ける流れの強さで片方の腕だけでは耐えられなくなり、
いったん『プラウ』を置いてロッドの握りをベリーに持ち直し、
もう一度岸際へ誘導しようとしたとき、妙な感覚がベリーを持つ手に伝わった。
「そんな… 身切れだ…」
鱒は『ディノバ』のフックに口の肉片を残して消えてしまった…

片腕に持ったロッドに伝わった表現し難い重さ、
そして『プラウ』で鱒をすくおうとしたときの、もう片腕の強い振動と重さだけが残り、
僕の胸はナイフでざっくりえぐられたみたいにズキズキと傷んだんだ。
左手は少し震えていた。
めちゃくちゃ荒い息遣いで仲間に電話、右手もめちゃくちゃ震えていた。
そして目には涙が滲んでいた!…

思い返せば解禁から3週目の日曜日。
下手くそな僕には初めての神通サクラマスがプラグをくわえた。
がしかし。10mほど手前の沈みテトラにラインを擦られブレイク。
ほどなくして、そのプラグを外そうとするかのように鱒が水面に飛び出し消えた。
まるでサヨナラと言われたみたいだった…

すでに時は5月中旬に差し掛かり、“神通川渡り隊”と命名された仲間達や、
神通川の遊漁券抽選に落選してしまった“庄川特派員”が、次々と釣果をあげていく…
シーズン最後までにサクラマスキャッチの任務を遂行できなかった者は、
罰として地元の長野県・犀川の児玉橋からバンジージャンプにしようか等々と、
周囲ではにわかにささやかれ始めていた。
“神通川渡り隊”の渡れない組(釣れていない組)は残すところあと2人となり、
「もし自分だけ釣れなかったら…」そう思うと憂うつになった。

「大きなサイズとか奇麗な魚体とかじゃなくていいから…」
日増しに高まるプレッシャーと不安。
そして今起こった目の前でのランディング失敗という現実に落ち込み、
なんだかとても悲しい気持ちになってしまった。
川の流れのもっとずっと遠く、青い空に浮かんだ雲を、
そのまま地面に座り込みしばらく眺めていた。
現実を受け入れるため、とりあえずたばこをふかし、風に煙をそよがせながら放心…

4日ほど前に激しい雨が降って、しばらくダムからの放水が続き、
ずっと水位が高く、すっと水の引いた今日に釣り人は集中している。
この流れに付いている鱒は今しがたの1尾だけのわけはないだろうと、
重い腰をあげてその場所より少し上流に移動し、『ディノバ』に再度命を宿していく。
このプラグはまるで、神通鱒を狂気へと導く翼を持っているみたいだ!!

再びロッドを絞った鱒は先程の鱒より数段軽いけど、
水中で激しくローリングしている!
太陽の光を受けてシルバーの魚体が水面に膨張して見える、
また心臓が止まりそうだ。
…そうしてやっと、やっと、
ようやく『プラウ75SL』に無事にネットインすることができたんだ。

その後、2〜3日してから。
“神通川渡り隊”の最後の渡れない(釣れていない)隊員も、
無事に任務を完了したとの報告。
犀川の児玉橋バンジーは、晴れて全員が免れた。
もう、飛び込むときのパンツは赤に黄色の稲妻がプリントされたものにしようか、
茶色に水色の水玉模様をあしらったデザインのものにしようかと、
夜な夜な悩む必要はなくなった。
水玉を選択して児玉橋から飛び込む自分の姿は、もう夢に見なくて済むのだ。

58.5cmの、決して大型ではない神通サクラマスだけど、
僕にとってはプラチナに輝くダイヤモンド。