リバロス ブレイドウィザード86MH
ディノバ 80ミディアムランナー Gベイト
ステラ4000XG
PEライン16ポンド&ナイロンリーダー16ポンド
プラウ90SL
ブレイドバー シルバー
富山県 神通川
2011年5月3日
AM10:20
快晴
未計測
9.3℃
アングラー:NORIXON(ノリクソン) 群馬県安中市在住

サクラマス。
ゴールデンウイークごろがゴールデン…

流れの鱒釣りを教えてくれた先輩に、昔、そう教わった…
ここ数年、ゴールデンウイークは長野県・犀川で、先輩と過ごすことが多かった。
そして、それなりに鱒と遊ばせていただいていた。
…しかし、ある年。
そのときも先輩と犀川を攻め、先輩は50p前後の鱒を数匹釣り上げたのに対し、自分は完全無欠のノーバイト。
その夜の宴で、先輩からこの言葉をいただいた。
「世間はゴールデンウイークだが、お前はぜんぜんゴールデンではない」

鱒がカワウにやられた一撃のように、決して消えることのない傷跡…
その言葉は、いまでも私の心に刻まれている…

ここ数日、長野県・犀川のいい釣果があまり聞かれていないこと。
自分がただ単に、サクラマスを釣り上げたいこと。
そして、先輩という“カワウ”に負わされた傷を癒したいこと。
今年のゴールデンウイークの神通川行きは決定した。

いつものように仕事を終えてから、深夜に車を走らせ川に向かう。
実は先週も神通川に立ち、サクラマスらしき2枚の小さな鱗だけをフックに残され、逃亡されてしまったポイントがあった。
購入したての『ディノバ 80MR』で中層を攻めていたとき、突然「ガツン、ガツン」と2度もバイトがあったにもかかわらず、うまくフッキングすることができなかったのだ。

道中、その“鱗”ポイントに何時頃入るかをずっと考えていた。
川に到着し、深夜の車内でビールを飲みながらもそのことを考えていた。
結局、睡魔には勝てずに、その結論を出せぬまま朝を迎える。

ゴールデンウイークの神通川は、有望ポイントは朝から人でごった返し、まるでサクラマスの激戦区、福井県・九頭竜川のようであった。
当然、朝に自分が入りたいポイントは満員御礼。ちょっとした寝坊がとてもイタイ。
仕方なく、誰も入っていない瀬を攻めてみるも、何かしっくりこない。
何カ所か、そういった人が入らなそうなポイントに入るも、鱒からのアタリはない…
時刻は9時、もうあの“鱗”ポイントしかない… ポイント移動だお〜

しかし、既にフライ釣りの方が攻めていた。
自分はそのポイントの対岸で、釣りをしながら様子を見ることにした。
フライフィッシャーマンは1つのポイントに時間をかけ、粘る場合があるからだ。
同じランを何回か流す方もいる。
思うに、多分、ルアーに比べフライのアピールが小さいこと、フライを振れるポイントが限られていることに起因しているのであろう。
しかしそのフライ釣りの方は、そのランを一流ししただけで川から上がり、ポイント移動のため、車に向かって歩きだしたのだ。

チャ〜ンス!!
急いで車で対岸に向かい、見事そのポイントをキープ。
時計を見ると午前10時、まだまだ釣れる時間帯だ。
「ザワ、ザワ…」胸騒ぎが止まらない。
中学生時代、好きな子の家の前を勝手にオシャレして歩いたあの日のよう。
その夜は両親の顔をまともに見られなかった。いつかザンゲして楽になりたい。
迷わず、前回のアタリルアー『ディノバ』を結んだ。
『ディノバ』は飛距離も出て、動きのアピールが大きく、重いシンキングなのにトゥイッチ時のレスポンスがいい。また、ルアーの遊泳層をコントロールしやすいと感じた。
このルアーはサクラマスに向いている。

「いいか。女性と川はウワベで見るな」
この春、先輩が厳しい顔で言ってくれた教えがギュッと胸にくる。
確かに同級生のあの子は超可愛かったけど、自分には超デビルだった。
内面が大切なんだ、女性も川も中身だ、このランの中身に集中しなければ。
クロスにキャストし、ルアーを中層まで沈下させる。
そして、軽くトゥイッチを加えながら、水中の様子を想像して丁寧に釣り下る。
何度かキャストを繰り返したランの中程。
岸際のかけあがりで、突然『ディノバ』が襲われた。

「ガツン!」

この手応えの後、魚が底にへばり付いた。
ほっぺたをパンパンに膨らまし、いつものスタイルで魚にプレッシャーを与え続ける。
でも、一向に魚は動こうとしない。さらにパンパンにほっぺたを膨らまして応戦する。
すると突然、魚は走り出し、ドラグを鳴らしながら水面に踊り出た。
「ジッ、ジーーーッ!」

「おう、ドラッグ出るね〜」思わず呟いた。
ラインが切れるのが先か、ほっぺたが張り裂けるのが先か。
白銀の魚体を水面に出し、魚はイヤイヤしている。
「先輩、鱒!」心の中で叫んでいた。

何度となく、リールにラインを入れては出されることを繰り返し、徐々にではあるが、鱒との距離を確実に縮めていく。
あとちょっとのせめぎあい。寄せては走られ、また寄せては走られる。
しかし間違いなく鱒は弱ってきている。
そしてとうとう…

長引いた鱒とのファイトの緊張感からか、震える手で『プラウ90SL』を持ち、やや強引に鱒をネットに転がし入れた。
あと5分でもファイトが延びていたら、自分のほっぺたは危なかったかもしれない…
浅瀬に横たわるサクラマスにメジャーをあてると64p。
サクラマス自己新記録達成だ!

迷わず、その場で携帯電話をとり、かけ慣れた番号に発信する。
「先輩、またやっちゃいました。今度は『ディノバ』で64p!」
伝えたいことが多すぎたため、まくし立てるように叫んでしまった。
「お前はもう立派な上級生だろ。しっかりしろよ」
笑いながら優しく一喝してくれる、冷静な先輩。
携帯電話の音声からは、川の流れるザーザーとした音が聞こえてくる…

「おめでとう、良かったな。今年のお前はまさにゴールデンだな」
詳しく話したかったことがいっぱいで、何を言ったか正直覚えていない。
これまでの先輩からの数々の厚意が次々と脳裏に浮かび、胸がどんどん熱くなり、仕舞いには言葉に詰まってしまった。
目の前のサクラマスが涙で滲んでくる。いつもありがとうございます。

「先輩、どこで釣って…」
自分の気持ちが少し落ち着きかけたとき、急に先輩のことが気になった。
今年、神通川の遊漁券の抽選に落ちてしまった悲運の先輩。
いまどこの川で釣りをしているのだろう… きっとたった独りで遠征している。
あのザーザーとした音、確実にどこかの本流に立っている。
そのことをどうしてもはっきりさせたかった。
しかし、自分の質問が終わるのを待たずに、通話は静かに切られていた。

実はこの話には裏がある。
自分は先輩が以前から狙っていた本流が何所なのか知っていたし、その日、どう見ても先輩は早朝からその川に立ってサクラマスを釣ろうとしていた。
最新の携帯電話からだと、その川は水位だけではなく、濁りも分かる。
濁りの度合いが数値化されてバッチリ表示されるからだ。
でも先輩の古い携帯電話では、水位しか見ることはできないらしい。
だから先輩は、実際にその川に立たなければ、水の色は確認できないわけだ。

その川がとんでもなく濁っていることを、自分は携帯電話で確認して前日から知っていたけど、あえて知らんぷりをしてみた。
カワウに痛めつけられた鱒からの反撃。
後でいくら聞いても、その日のことにかんして先輩は、貝のように口を閉ざしている。
「さては先輩、ぜんぜんゴールデンじゃねぇ〜ウイークだったな〜」
先輩という“カワウ”は、まんまと罠にはまったのであった。

こんな下克上もたまらないから、流れの鱒釣りは永遠にやめられない…