リバロス ブレイドウィザード86MH | |
ロンズ ファーストシンキング9cm フレークSパール | |
ステラ4000XG | |
PEライン16ポンド&ナイロンリーダー16ポンド | |
プラウ90SL | |
ブレイドバー シルバー | |
富山県 神通川 | |
2011年4月11日 | |
AM9:30 | |
曇りのち雨 | |
未計測 | |
8.5℃ |
サクラマス。
桜の咲くころ川に溯上し、桜のように美しい。
だから、サクラマス。
三十路を過ぎていまだ独身。自分の桜も咲かせていない。
そんな、流れの鱒釣りを教えてくれた先輩に、数年前、そう教わった…
それからというもの、主に福井県・九頭竜川で、暇を見つけてはサクラマスを狙った。
しかし、今まで出会えずにいたのであった…
そんな自分に先日、千載一遇のチャンスが訪れる。
富山の神通川で、“なにか”を掛けたのだ。しかし痛恨のバラシ。
魚体を見ていないのでなんとも言えないが、もう悔しくて悔しくて。
目を瞑ると今でもよみがえってきて、まだ悔しい。
そのバラシの件を、他人の出世に厳しく、レディーにはめっぽう甘い、流れの鱒釣りを教えてくれた先輩に電話すると、
「サクラマスは毎年新入生。お前はそろそろ上級生になれ」と。
先輩、深いっす。やっぱ深いっす。
そんなことですから、次の休日ももちろん神通川です。
夜中に川に到着。
いつもは発泡酒だが、なにか予感を感じ、今日はちょっと奮発してビールで前祝い!
そのままご機嫌に愛車の中で就寝。
翌朝、朝一番から釣り始め、ポイント移動を繰り返す。
川は、前々日の雨の影響と雪シロで濁りが入っていた。
水温の上がり始めた午前9時30分ごろ、突然、ドラマが訪れた。
重く、深い神通川の流れの中、底付近を這わせた『ロンズ ファーストシンキング9cm』が、「モゾッ。」というかすかな違和感と共に、魚の口の中に吸い込まれたのであった。
直後、体は反射的に反応し、フッキングを入れていた。
PEラインをとおして愛竿『リバロス』から伝わるグリン、グリンとした手応え。
これってもしかして、サクラマス特有のローリングってやつではないのか?
結構遠くで掛けたことと、川の濁りで魚体を確認することはできない。
前回と同じ過ちをおかしてはいけない。
とにかく慎重にファイトを続け、魚との距離を徐々に縮めていく。
今まで、魚を掛けて、こんなに“バレるなよ”と思ったことがあるだろうか!?
心臓がバクバクし、胃が締め付けられるような感覚が続く。
とうとう魚体が確認できる距離までつめることができた。間違いない、鱒だ。
「先輩、鱒!」
沖縄の巨大ロウニンアジ…
千葉県外房のヒラマサ…
伊豆・網代の大アオリイカ…
長野県犀川の化け物レインボー…
他にも…
釣り人生、節目、節目の魚を釣り上げたとき、隣にはいつも先輩の笑顔があった。
でも、今日は独り。あの太陽のような笑顔はどこにもない。
しかし、だからこそ、獲りたい。
いつものファイティングスタイル。
ホッペタをパンパンに膨らまし、サクラマスに応戦する。
浮かしては潜られ、浮かしては潜られを何度も繰り返す。
もう、サクラマスは目の前。
体力を失って潜る力がなくなってきたサクラマスを、『プラウ90SL』でネットIN。
独りで獲ったどお〜!!
やっと獲ったという安堵感…
サクラマスの美しさの前に、ただただ、立ち尽くしていた…
たまたま近くを散歩していた地元のおじさんに、お祝いの言葉をいただいた。
その瞬間「ありがとうございます」と答えそうになった。
それと同時に、慌ててその言葉をのみ込んだ。
優しいおじさんに、普段は特別なレディーにしか見せない特効の笑顔を返した。
そして濡れた震える手で、静かに携帯電話を取った…
この人生初のサクラマスを釣る前日。
先輩は自ら神通川に立ち、釣りもせずに有益な最新情報を集めて教えてくれた。
頼みもしないのに、仕事のついでだから寄ってみたのだと言っていた。
実は入漁券の抽選に落ちてしまった悲運の身なのに、なぜわざわざ富山まで…
「やっちゃいました! サクラマス釣っちゃいました!!」
溢れそうな思いが、きっと声に出ていたと思う。
「ありがとうございました!」
携帯電話の向こうで先輩は楽しそうに言った。
「良かったな。やっと上級生になったか」
2007年にサクラマスを狙いだした。その自分に、やっとサクラが咲いた。
先輩の住む街の桜が散る前に、お礼の花見をしに出かけよう!
遠い昔、神通川のサクラマスは江戸に献上までされる、お墨付きの鱒寿司の魚だったと聞いたことがある。その花見で、人生初のサクラマスを先輩に贈ろう!
富山から帰宅した夜、先輩にこの計画をメールすると、
「しっかりしろ。もっと大切な人のためにサクラを咲かせろ」
と一発で跳ね返されてしまった。
せっかく持ち帰ったサクラマスを冷蔵庫にしまおうとしていると、
「こんなに大きな魚を釣ったの? スゴイわねぇ…」と母が近づいてきた。
「ニシンの大きなもの?」「ヤマメが海に降りて、川に上ってきたやつだよ(笑)」
翌日の夕飯。生まれて初めて食べたサクラマスに、母は優しくほほ笑んでいた。
そのことをメールで先輩に伝えると、
「今夜は飲む。見事なサクラが咲いたのだから、独りで飲む」
この返信を残して、その夜はそれきり連絡が取れなくなってしまった。
普段、決して独りでは深酒をしない先輩らしくもない。でも、先輩らしい。
好物のスモークサーモンで、おいしいお酒を飲んでいるのかな。
いつか桜の木の下で、朝まで先輩と釣り談義に花を咲かせたいなぁ。
その日まで、流れの鱒釣りはきっとやめられない…