リバロス ブレイドウィザード86MH
ロンズ フローティング9cm KSブルー/ピンク
ステラC3000HG
PEライン1.5号&ナイロンリーダー16ポンド
プラウ90SL
ブレイドバー シルバー
ネットバンド ブラック
コットンツイル・ロゴキャップ ダークブラウン
富山県 庄川
2012年5月12日
PM2:15
晴れ
未計測
11℃
アングラー:荒井尚志(あらい ひさし) 長野県安曇野市在住

不朽の名作、『ロンズ フローティング』でサクラマスを。
このプラグは地元・犀川(さいがわ)では出番が少ない。
虹鱒やブラウントラウトを相手に釣りをする場合は、流れの低層を意識するから、
専ら『ロンズ スローシンキング』や『ディノバ』中心の釣りを展開する。

でも一般のフローティングミノーより『ロンズ』は流れをつかみ、
潜行深度は深く、絶対的な遊泳バランスを保持し続ける。
飛距離も申し分なく、気持ちよく対岸を目指す。
何よりその動きがたまらなく好きで、まさにフローティングミノーの最高傑作だ。
だからこのプラグでサクラマスを釣りたい。
それは今までに一度たりともかなったことのない積年の願いだ。

今、僕が向かっているのは、
上流で流れを二分した本流筋が1つに纏まるYの字合流のトップ部左岸だ。
この場所はそこそこの実績が出ている、この河川では人気のポイントと言っていい。
だがしかし。
この流れを狙う釣り人は圧倒的に右岸側からが多い。
それは流れの中に点在して見えるテトラをかすめるようにルアーを通して、
そこに居ると想定される魚をバイトに導くためで、90%は皆、右岸側を釣り下る。

さらに右岸側はそのテトラ帯が終わっても深く、
巻き返しを抱えた状態でランが長く続く。
この流れ、このポイントの釣りは、
自然と「右岸側から」と皆の頭のDNAに埋め込まれているようだ。
でもここ最近の水況と魚のスレ具合、この時間を考慮すると、
すでに何回も、何投も、何人も、先行者は右岸側を釣り下っているだろう。

そして左岸側からの釣りを選択した最大の理由は、
右岸は左岸よりも手前に流心があるからルアーのトレースに限界があることだった。
魚が瞬間的にルアーを確認しても、
バイトに導くまでの時間と距離が短すぎて、うまく食い上げてこないと予想できた。
この状況ならこの場所、と以前から決めていた。
この水量、時間から、まだ釣り人がルアーを通していないポイントは左岸側なのだ。

細い分流を渡り、しばらく歩いてからその場所に到着すると、
やはり左岸に先行者はないようで、水勢、水量、水温すべてが僕の釣り方では理想。
「これは…」と気持ちが高揚してくるのを感じて思わずニヤリ。
右岸から僕の姿を確認している釣り人がいる…
流心で激しく『ロンズ フローティング』をヒラ打ちさせてから、
その流心を抜ける次の瞬間、ほら…

重厚な重みが『リバロス』を絞り、水中に銀の魚体が躍動する。
斜めにサクラマスがジャンプして水面からその姿を現した時、
「やばいわよ!」と背中の相棒、『プラウ90SL』(愛称:ヴィーナス)が叫んだ。
このハリを外そうとジャンプした時にバレてしまう確率は案外高くて、
なおかつハリの「伸び」もこの時によく発生するのを知っている。

冷や汗をかきながら、流心に突っ込むサクラマスを騙しながら誘導し、
無事にネットインした時、またじんわりと汗が滲み出た。

ファイト中に確認できた2つのフックの掛かりはなく、
口の蝶番だけに掛かっていたフックの1本は伸びていたから。

「ヴィーナス」はこの春待ち焦がれた待望の1尾、
大型のサクラマスにとても満足気で、誇らし気だった。
それは僕だって同じ。念願の『ロンズ フローティング』で釣れて良かった。
しかも大好きなブルー/ピンクでなお良かった。
狙いどおりに、狙った場所で、欲しいと願った魚を計算どおりに!!

どうしても魚と一緒の写真を撮って欲しくて、
この日、庄川(しょうかわ)へ一緒に釣りに来ている後輩に携帯電話で連絡。
理由はもう1つあって、まだ釣り下っていないテトラ帯や、
その先に続くランをどうしても後輩に釣らせたくて。
「今日釣らないと後が厳しい…」
そんな予感がした。それで、どうも気乗りしない様子の後輩を無理矢理呼んだ。

ひどく疲れた顔をしている。
彼はとても努力していて、頑張りがそのまま釣果に比例するのなら、
彼から優先的に魚を手にするのが相応しい。
しかし残念なことに未だ1匹も釣れていない。降海型サクラマス挑戦の1年生だ。

僕は先に続く流れの深さを考えて、
『ロンズ スローシンキング』のKSグリーンを勧め、
このサクラマスはこんな感じで釣れたとイメージを話した。
後輩は僕の言葉を素直に受け入れそのとおりに流れに『ロンズ』を送っていく。
何と可愛い後輩だ!
すると約30分の沈黙を破って、彼の手にも念願のサクラマスがっ!!…

50cmのサクラマスを釣り上げた彼に、
初めてサクラマスを手にした時の僕を重ね合わせて見ていた。
もう本当にたまらなくうれしそうな彼の顔を見て、
自分もまた、たまらなくうれしかったんだ。

いつも僕を「ウザイ」と思っている後輩も、
この時ばかりは僕が「神様」に見えたに違いない。また計算どおりだ。
仮に67cmのサクラマスを彼が手にしていたら、僕の顔はひきつっていただろう。
こうして庄川に最高に幸せな2人の笑顔が咲いて、
緩やかに、ゆっくりと時が過ぎ去っていった…

数こそ違えど、今も昔もヤマメはずっと海へと降海し、
厳しい自然や食物の連鎖を生き抜いて命のバトンを次の世代へと繋いできた。
海はおおらかにその成長を見届け、促し、豊潤な恵みとして川へと送り返す。
僕はというと相変わらず毎日、怠惰な生活を送っている。
そんな日常のなか、サクラマスを手にした瞬間と感激が、
何度も何度もフラッシュバックして、
昨日あったことみたいに脳裏によみがえってくる。

そしてそれは時間の経過とともに、その時に感じた美しさよりもさらに美しく、
甘美な思い出に変わって僕の心を支配し続ける。